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蔵人と会話しよう:酒造の勉強(その1)

蔵人と会話しよう:酒造の勉強(その1)

四月。桜が咲き新たな門出の季節となりました。
清明節の頃になると3月の上槽(じょうそう)ラッシュも一段落し、甑(こしき)倒しをされた蔵もあるでしょう。 この ”甑” は、酒造りに使う蒸米を造る桶のこと。今シーズンの酒造りが終了したとき、 しばらく米を蒸すことがないので、甑を使わなくなる = 甑を倒す と言います。 これが終われば、蔵元さんも一息ついていることでしょう。酒呑み達にとっては、蔵開きがあるかなとワクワクする頃です。

上槽も、甑も、日本酒造りに関した独特な用語です。酒造りの長い歴史から、これらの用語を使った慣用句が生み出されています。 蔵人さんと会話したとき、そういった言葉を知っているとより話が盛り上がるかもしれないですね。飲み屋で使っても、ちょっとカッコいいかも…?
そんなわけで、日本酒の製造工程を少しだけお勉強して、蔵人さんとも話せる知識を身に着けてみようと思います。

製造工程を知ろう!

おおまかな日本酒製造工程を、図にまとめてみました。
今回図示した工程は、生酛造り純米酒の製造を前提としていますので、乳酸菌および本醸造で使われる添加用醸造アルコールは材料に含めていません。
なお、すべての日本酒がこの通りの工程を経て出荷されているわけではありません。造ろうとしているお酒のタイプ、 酒造りの環境などなどの条件で異なってきますので、その点はご注意ください。

 

 

図中の黄色い四角は、”外部から調達してくる材料”、緑の四角は ”日本酒醸造過程で生成されるもの” を示します。 そして、楕円が ”作業工程” です。

全工程の前半にあたる、「1.原料処理」~「5.圧搾(上槽)」は、省略することができない工程で、どの酒蔵でもやっています。 それでも作るお酒の種類によって、各工程の詳細内容は様々です。
全工程の後半にあたる、「6.滓引き・濾過」~「9.火入れ2」は、最終的に出来上がるお酒のタイプによって、途中の工程そのものを省略したり、全工程をやったりと変わってきます。
同じ銘柄の日本酒でも「しぼりたて」とか「生酒」という異なる名称が付与されているのは、ここの工程違いからなのです。
そして、最後の「10.加水・瓶詰」。加水は、水(割水)を加えてアルコール分を調整すること。こちらはしなくても、瓶詰だけは省略できません。 なにしろ、現代では瓶詰しないと、各地の消費者のもとへは運べませんもんね(笑)

造り手はどんなものを造りたいか?

蔵元さんが日本酒を醸造する上で、どの様な酒を造ろうとしているのでしょう。 市場のわがまま要求をどんどん聞き入れているのでしょうか?
そこはプロですから、そんなはずもなく…

  1. 「どんな香味の酒」で
  2. 「どれだけの量」を
  3. 「いつまでに」作るか?

といった、市場調査結果に基づいた販売計画が必要になってきます。
また、蔵元さんは「販売額とコスト」も考えないといけません。 それはそうだ、蔵人さんたちの生活がかかっていますからね。

では、自家消費用に醸造すると仮定して、これら一つ一つを、もう少し詳しく考えてみましょう。割と緩い設定ですけどね(笑)

1.どんな香味の酒

この要求はしっかりと固めないとダメですね。
普通に販売するとなると、醸造した日本酒に長期的なファンがたくさんついてくれるよう安定した香味にしたいところですね。それには、市場動向の分析や、ユーザの声を知ることが必要です。
今回の仮定では自家消費ですから、さしあたって 生酛系山廃仕込み純米酒、ぬる燗で落ち着いて呑める、甘くも辛くもない ”中口” の食中酒といったぼんやりとした注文にしておきましょうか。

2.どれだけの量

消費モデルとしては、日本酒ライトユーザー:Aさん が自家消費用として、「1年ぐらいかけて飲みきりたいなぁ」という程度にしておきましょう。
ライトユーザーの定義としては、とりあえず週に1~2回の日本酒晩酌(約2合/回)をする人としておきます。
そうするとAさんが1年間で消費する日本酒の量は…

52週/年 × 1.5回/週 × 2合/回 = 156合/年

10合で1升(1.8リットル)ですから、だいたい1升瓶16本(28.8リットル)を醸造できれば良いとなります。

(余談) むむ… 国税庁が出している統計と、モデルになるライトユーザーの消費量から、年間ユーザー数が推計算出できそう。面白そうかも。

3.いつまでに

日本酒を造ると決めたら、いつリリースしたいか(自家用ならいつ飲むか、販売ならいつ売るか)も予め考えます。 しかし、いくらお金を積まれたり、醸造技術が進歩しても「1秒で米から酒を造れ」という要求は、無理です。
麹菌や酵母の働きに依存している工程が存在する限り、最低限それらにかかる時間は、どうやったって必要になってしまうのです。
では、最短どれぐらいの時間で、日本酒はできあがるのでしょうか?ちょっと想定してみます。

<条件>
熟練工(杜氏さん)がいる
充実した設備がある
ふんだんに材料がある

この条件下で精米からスタートし、トラブルゼロで作業がスムーズに進んで瓶詰・出荷が終わるまで、最短約4ヶ月 かかると思われます。
注:仕込みの種類によって期間見積は変化します。
期間算出は酒仙人 日本酒・焼酎ポータルを参考にしました。

4.販売額とコスト

今回は、自家消費用と想定していますが、実際の酒造メーカーは販売しているので、お金の面も想定しておかなければなりません。 製造を続けるためには、コストが販売額を超えては困ります。
つまり、酒税も考慮して醸造にかかった直接原価(材料費、蔵人の人件費)と、販管費(水道光熱費、間接要員の人件費、宣伝広告費、輸送代等々)の合計が、 販売総額を超えないようにしなければなりません。
損益分岐表を書いてみようかと思ったのですが… ここでは単なる自家用消費としているので、小難しいことまでは触れないでおきます。

造り手の気持ちになって考えてみましたが、造る前から考えなければならないことが沢山です。 蔵人さんたちは、語らずして色々なことを習得しているのですね。

今回は書かなかった、設備・道具、材料、各工程の詳細(アルコール度の計測方法等)や、 日本酒の名称(搾りたて生原酒、中取り、うすにごり など)はどうやって決めているのか等は、追々コラムで書いてみようと思います。