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酒蔵を知ろう:神奈川県・井上酒造(その2)

酒蔵を知ろう:神奈川県・井上酒造(その2)

写真1:井上酒造・蔵開きの酒造り体験 

酒蔵を知ろうの第一段、神奈川県大井町にある 井上酒造 さん。
前回は、蔵の紹介を中心に書きましたが、今回は見学してきた酒造りの様子について踏み込んでお話をしたいと思います。

こちらの蔵の特徴と云えば、井上社長(写真・左手前)を始め、蔵付杜氏さんと数人の方による小規模な蔵。昭和の雰囲気を残す蔵で造られるお酒は、地元の人と協力して年々様々なチャレンジが見られます。

TOPの写真は、毎年12月下旬に行われる蔵開きの際の一枚。
一昨年から復活させた、生酛(きもと)造り。地元の農家さんが作ったお米を使い「左岸」という銘柄で売出されています。蔵開きでは、希望者に数分間の山卸作業を手伝わせてもらえます。お米を作った農家さんたちも山卸に参加し、皆さんの思いのこもった地酒が造りだされています。


前回の紹介記事は、こちらに…
 ・酒蔵を知ろう:神奈川県・井上酒造(その1)

  

11月上旬:今季の仕込スタート

写真2:仕込みに使う酒米

2017年は11月初旬から、今期の酒造りが始まりました。
写真2右側は、翌日の酒母造りに使う蒸米です。吟のさとを70%磨いた状態だそうです。真っ白に磨かれ、水を含んでしっとりしたお米、これらが麹菌によりアルコール化してゆくわけですね。

写真2左側は、精米する前のお米のサンプルです。昨年のものと、今年のもの、2つの吟のさとを並べてみました。
このサンプル袋には、それぞれ
 ・27年 吟のさと(神奈川) 水分14.9% 玄米2等
 ・28年 吟のさと(自家米) 水分13.6% 玄米1等
と記されていました。

これらは、精米場で記されたものです。神奈川県の多くの蔵では、精米機は持っていませんから、精米歩合を指定し精米してもらいます。そして精米前の水分量、精米後の水分量の計測結果を、サンプルの袋に書いて、精米後の米と一緒に納品されるのだそうです。
27年の吟のさとは、精米歩合55% にした際には10.0%の水分量になっていました。この後、”枯らし” の期間を設けて、少し水分量を戻してから実際の酒造りに使われるのだそうです。

井上酒造さんでは、精米後に計測された水分量とその日のコンディションで、米の洗米・浸漬時間を決めているのだそうです。繊細な味わいにこだわる蔵では、精密にコントロールするために、浸漬する前にその都度米の水分量を測るところもあるのだとか。
こういった工程の端々にも、それぞれの蔵の目指す酒質の方向性が、見えてくるのですね。

写真3:酒母室に置かれた酒母帳製造帳

神奈川県の11月は緩やかに寒くなる頃。初旬であれば最低気温でも、10度を少し下回る程度と、まだまだ動きやすい季節です。訪れた11月3日には、すでに今期最初のお酒は酒母造りが始まっており、翌日も次の酒母造りが行われる日でした。

酒母タンクの横には、その日の午前中に出麹したばかりの麹米が待ち受け、タンクを酸化するための乳酸や、蒸米など、明日使う材料が準備万端に並べられていました(このときの様子は、前回のレポート写真6)。

酒母製造帳には、今期最初のお酒の温度変化がグラフで記録されています。
こちらの温度管理は、40度位と一般的な発酵の温度管理より高め。
吟醸酒など綺麗なお酒を造るには、酵母が活動できるギリギリ位の低温にすることに比べると、だいぶ高めの温度です。

これは、管理のしやすさを優先したということでした。少ない人数で酒造りを行う上で、安定した酒造りをするために、あえての高めで発酵させているそうです。
 
 

12月下旬:初しぼりの出荷&定番酒の仕込

写真4:蔵開き・新しい杉玉を掲げて

次に伺ったのは、12月23日。毎年恒例、蔵開きの日です。
昼過ぎ、まだ葉が青々とした新しい杉玉を掲げて、蔵開きが始まりました。

今シーズン最初のお酒は、「箱根山・初しぼり」として数日前に出荷されていました。そう、11月に酒母タンクから良い香りを発していたあのお酒の出来上がりです。
そのお味は、がっつりパワフルな本醸造酒。程よい酸と、まだ搾りたての元気な麹感が美味しいお酒でした。

蔵開きの大々的な宣伝はされてはいないので、主だった参加者は、近所の方、蔵ファンの方でしょう。初しぼりを始め出来立ての新酒と、豚汁や味噌田楽、漬物などが振る舞われ、蔵の一角は訪れた呑兵衛たちで大盛り上がり。

もとすり体験(写真1)も、この蔵開きの日に行われます。
希望者は、順番に1人5分程度、山卸作業。
かい棒は長く持って、かるく蒸米を混ぜると簡単なレクチャーがあった後、二人一組で息を合せて、いーち、にーい… とお米をすります。
筆者も、もちろん体験しました。杜氏さんの説明では「こんなのでいいの?」というくらい、軽く力を抜いて混ぜるとのこと。しかし、ついつい力が入ってしまい、床磨きのような姿勢に。かい棒の端を持てと言われたのになぁ。。。と反省しきりでした。
 

写真5:仕込タンクの様子(12月下旬)

蔵開きの日も、次々と仕込は進んでいきます。
同じ日に見せていただいたのは、定番酒「ぎんから」の醪タンク。見学者用に、仕込途中の醪のサンプルも用意してくださいました。

写真5のタンクがそれです。
もう、2日後には上槽するところまで出来上がっている状態でした。タンクには冷却装置が浮かべられ、酵母の活動も最終局面を迎えたころです(写真5・中央)。
タンクの下に並べられた、発酵途中の醪のサンプルには
 ・醪 4日目 アルコール 6.5% (写真5・左下)
 ・醪 20日目 アルコール 16.5% 3日後に上槽予定(写真5・右下)
と書かれていました。

上槽目前のタンクからは、麹の甘~い香が漂います。これは本醸造酒を前提としているため、甘いお酒になっているのだとか。
この醪が完成した姿「ぎんから」は、スッキリと軽快な端麗辛口タイプのお酒です。絞ったあとに、醸造アルコールと入れ加水調整すると、辛くなりますからね。なるほど… 改めて知ればご尤もです。造るお酒の出来上がりを想定し、発酵のコントロールをするわけです。
ちなみに、本醸造のお酒を造る予定のタンクを、仕込み日数を少し長くして日本酒度を上げることはできるのかと聞いたところ、「それは無理」とのお答え。ちゃんと、目標に向かって仕込みタンクは管理されているのですね。
 

地元の人々とともに造る酒

写真6:大井町・酒蔵で地酒と親しむ会

数回にわたり井上酒造さんにお邪魔しましたが、『地酒というのは、やはり地元に人に愛されてこそ』と、改めて感じた蔵でした。

最後の写真は、大井町役場が主催した『酒蔵で地酒を親しむ会』の一コマ。井上酒造のお酒と、足柄牛のペアリングなど、地産地消をテーマとしたイベントです。
大井町は神奈川県の市町村で唯一、”地酒で乾杯” 条例を制定しています。これを広めるため、町役場と町内の酒造(井上酒造、石井醸造)が連携して、日本酒に親しむ会を開催しています。当日の参加者の方には、地元在住のお年寄りもお出でになり、「子供の頃この近くを通っていて、湯気が上がっているのは見ていたよ。今日は、あの中に入れると聞いて楽しみにしていたんだ。」というお話をされていました。
大井町役場では、地元の飲食店で地酒を楽しむ機会もこれから作っていくそうです。

蔵開きで山卸体験したお酒「左岸」は、2月末頃に出来上がる予定とのこと。
そのお酒を前に、米作りした人のお話聞きながら飲めたら、一層美味しくなりそうだな、と思いながら蔵を後にしました。