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日本酒造りは酒屋萬流(其の弐) ~日本酒伝道(R)養成講座5~

日本酒造りは酒屋萬流(其の弐) ~日本酒伝道(R)養成講座5~

今夜の話は、日本酒伝道師(R)養成講座 ~日本酒造りは酒屋萬流(其の壱)~ の続きです。

では本題に入る前に、ちょっと復習…

日本酒は、米と水だけでできた酒。
麹菌が米を分解してブドウ糖(酵母の栄養分)をつくる。 酵母がその糖を食べながらアルコールを排出する 。その過程で、個性豊かな様々な香りや味の成分もつくられる。

このように、麹菌・酵母の活躍をサポートするために、様々な酒造りの工程があるということでした。

五限目:日本酒造りは酒屋萬流(其の弐)

日本酒伝道師講座 学長 杉原先生による精米のお話

数ある酒造りの工程(*1)のなかでも、一麹・二酛(もと)・三造りが重要であると言われます。今回は、この順を追いながら、どうやって米から酒という液体が生み出されるのか、見てゆきましょう。

今回のレポートは、長~くなりますから、覚悟してくださいね(笑)。


*1 日本酒の製造工程については、こちらをご覧ください。
日本酒造組合中央会:製造工程 (外部サイト)

一麹の前の…

一麹(麹造り)の前には、原料処理といわれる工程があります。それは、大きく分けて次の3つ

  1. 米を磨く:米表面のたんぱく質層を削り落とす
    たんぱく質はお酒の雑味になるため、精米により表面部分を削り落とし、中心のでんぷん部分を残します。特定名称酒(*2)の表示で使われる”精米歩合”とは、米をどれくらい削ったかを示すものです。
  2. 洗米・浸漬:表面に残ったぬかを洗い流し、米に水を吸わせる
    吸水時間は、その日の状況を見極めて杜氏が決め、秒単位で管理されます。米の吸水状態は、後工程の出来に影響します。
  3. 米を蒸す:蒸気で加熱し、蒸米にする(写真)
    吸水した米に蒸気をあてて加熱することで、でんぷんに隙間を作ります。蒸しあがった米は “外硬内軟” なものが望ましく、それを作るため甑(こしき)と呼ばれる酒造り独特の釜が使われます。

ここまで、後工程で菌が活躍するための素地づくりになります。
この原料処理の一つ一つにも、細心の注意が払われます。菌たちが良いお酒を生み出してくれるための環境を、杜氏をはじめとする造り手が緻密に設計し、ベストな状態を調えているのです。


*2 特定名称酒 : 国税庁 「清酒の製法品質表示基準」の概要 (外部サイト)

一麹:蒸米から麹をつくる

いよいよ、麹菌の登場です。
まずは “製麹” と呼ばれる工程。30℃を超えるの暖かい部屋:麹室(こうじむろ)の中で、蒸米に “種麹” (写真 右)という麹菌の胞子をふりかけ、麹を作ります。

二昼夜かけて、蔵人は床もみ・積み上げ・切り返し など、幾つもの作業をこなします。それらは、すべての蒸米に麹菌がむらなく・しっかりと繁殖してくれるよう、温度・湿度を調整し、麹菌にとって快適な環境にするため。蔵人は、寝不足を押して頑張ります。

何故ここまで麹の出来にこだわるか? なにしろ、蒸米に繁殖した麹菌は、酒を生み出すための重要な役割をするのだそうです。
その役割とは…

  • 蒸米を溶解し、糖化を促す酵素を供給する
  • 醪(もろみ)での酵母増殖、発酵促進に必要なビタミンなど栄養素を供給
  • 麹菌が作りだす成分で味に特徴を与える働きをする

と、麹の働きは、お酒になる前の成分を造りだします。
さらに、出来た麹の繁殖形態(破精)によって、後のお酒の香味が左右される(*3)のだそうです。

酒の香味を設計するというのは、この麹菌の繁殖結果までコントロールしようというものなのですね。しかし、実際の出来は菌次第。酒造りって… 蔵人と菌の絶妙なチームワークなのですね。


*3 破精 : 参考 灘の酒研究会 灘の酒 用語集 (外部サイト)

二酛(もと):酵母の育つ環境・酒母

次の段階は、麹を使って酒母づくりをします。
酒母とは、蒸米・水・麹を用いて優良な酵母を大量に培養したものです。別名は酛(もと)、まさにお酒のモトなのです。

酒母づくりは、雑菌に弱い酵母を効率よく増殖させるための環境づくり。小さなタンクが使われます(写真)

タンクの中では、菌たちの乱戦が始まります。
お酒を造るためには、アルコールを排出する酵母を沢山繁殖させたい。しかし、タンクの中には様々な雑菌が混入していますから、乳酸菌を使ってカヨワイ酵母をうまい具合に育てます。

  1. 雑菌たちは酸の中では生きられない性質があるので、まず乳酸菌を増やして雑菌をやっつけます。
  2. 酵母は乳酸の中でもしっかり生き続けられるため、雑菌が減ると酵母の天下となり増殖しはじめます。
  3. 酵母が活動するとアルコールを排出し、乳酸菌はこのアルコールにやられて死滅してゆきます。

こうして酒母を仕込んでから21~25日程経つと、タンクの中は余分な菌がなくなり、酵母がた~くさん増えているわけです。

ちなみに、この工程で乳酸菌を取り入れる方法の違いが、速醸酛(そくじょうもと)・生酛(きもと)・山廃酛(やまはいもと)と呼ばれるのです(*4)

ん…?
ところで、酒造りの主役 “酵母” は、
どこからやってくるのでしょう??

ここで登場する酵母の正式名称は、”清酒酵母”。
この酵母は、空気中に浮遊しています。代々酒造りをしている蔵の中はもちろん、お酒を飲む皆さんの家庭にも、清酒酵母はきっといます。酵母が好む環境をつくることで、空気中の酵母を取り込み、この中で増殖させる。それが酒母造りなのです。

この自然に取り込んだ蔵の空気中にいる酵母のことを、「蔵付き酵母」と呼びます。
それに対し、特定の酵母を科学的に育成したものを用意し、人為的に酒母に投入することもあります。お酒の説明に 「××酵母 使用」と明記されていることがあるのは、このことだったのです。


*4 酒母(酛)造りについて :酒仙人 日本酒・焼酎ポータルサイト
日本酒の造り方 (外部サイト)

三造:三段仕込みでウマイ液体・醪

ここまでくると日本酒造り後半戦、
三段仕込みの並行複発酵で、醪(もろみ)をつくる工程です。

三段仕込みでは、酒母に米・米麹・水を3回に分けて投入します。この仕込みは、

  • 1日目 初添え:大きなタンクに酒母を入れ、1/3まで米・米麹・水を投入
  • 2日目 踊り : 中休み
  • 3日目 仲添え:さらに1/3の米・米麹・水を投入
  • 4日目 留添え:最後の1/3の米・米麹・水を投入

こうして仕込まれた醪は、1cm³の中に最大2億個の酵母が活動しているのだとか。この酵母が一生懸命に米を食べてアルコールと二酸化炭素を吐き出す、本格的な並行複発酵が始まります。
おおよそ20~40日間、タンクの中でこの発酵が続きます。

三段に分けて仕込をするのは、大量の米や水を一度に混ぜ合わせると、酸性が弱まり、酵母以外の菌が繁殖しやすい環境となってしまうのです。そうならずに、酵母が元気に活動を続けられるよう、三段に分けて仕込む方法が取られています。

ここまで、大切に大切に育ててきた酵母も、最後には自身が生成したアルコールによって死滅してゆくのです。このときが仕込みの完了、醪を搾ってお酒になるタイミングとなります。

五限目の最後に…

ガッツリと酒造りの工程を二限に分けて学んできました。

前回の終わりに、「酒造りという舞台は酵母が主役」という言葉を聞きました。なるほど、こうして一つ一つの工程を深堀すると、酵母が活躍するため随所に気が払われてきたことがわかります。

日本酒の製法は、江戸時代にはほぼ確立されていたそうです。目に見えない微生物たちの活動を助け、より良い酒を生み出してもらう。科学で解明される前に、人は最適な方法を見出していた。古の蔵人たちが、お酒と真摯に向き合った結果の文化遺産といってもいいのではないでしょうか。

今回も最後に、心に染み入るお言葉をもらいました。

 「酵母がその生涯を賭けた作品(酒)が、人類の心と体を癒してくれる。」

手の中の盃に継がれた酒に、ロマンを感じるお勉強でした。


※ 注 ※
この記事は筆者が受講して、特に印象深かった点を中心に記述しています。実際の講座では、本記事にない色々なお話がなされています。また、ところどころ感想もまじえておりますので、ご了承ください。