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酒造りを語る・大七酒造 ~日本酒伝道(R)養成講座10~

酒造りを語る・大七酒造 ~日本酒伝道(R)養成講座10~

今夜の話は、蔵元自身が語る酒造りのこだわりについて。
福島の雄、生酛(きもと)造りの大七酒造株式会社 の社長自らが、酒造りについてお話し下さいます。

7月からの日本酒伝道師養成講座で、何度か酒造りについてのレクチャーを受けてきました。少し知識を付けた今だからこそ、大七酒造さんのこだわりがきっとわかるはず!
さて、どんなこだわりで大七の美味しいお酒が造られているのでしょう。

酒造りを語る(大七酒造)

福島県二本松にある、大七酒造。
創業は宝暦二年(1752年)と、由緒ある蔵の十代目当主が、現社長の太田 英晴氏です。
名峰 安達太良山の麓で酒造り一筋に発展を遂げ、正統的醸造法「生もと造り」の全国随一の担い手です。過去には、第16回 全国清酒品評会(*1)で全国第一位を獲得するなど、数々の賞を受賞するような名酒を醸されています。

さらに今年(2017年)は、醸造部長の佐藤 杜氏が黄綬褒章を受賞されたとのこと。大七酒造の酒造りは、まだまだ進化を遂げているようです。では、大七独自の酒造りのこだわりを、じっくり伺いましょう。

*1 全国清酒品評会
独立行政法人 酒類総合研究所が開催している、全国新酒鑑評会(外部サイト) の前身となるもので、醸造試験場の外郭団体である日本醸造協会が主催していました。明治40年(1907年)に第1回開催され、第16回は、昭和13年に行われました。現在の鑑評会では、入賞・金賞として評価が決められますが、当時はまだ全国の出品酒の中で順位を付けられていたそうです。

精米のこだわり

大七の酒造り、最初に紹介するこだわりは精米。

日本酒造りの精米では、出来上がったお酒の雑味の原因となりる成分を含む米の外層を落とし、中心のでんぷん部分(心白)を残すように米を磨きます。大七酒造では、ここに強いこだわりを持ち、綺麗なお酒が造れるような『超扁平精米』を採用しています。

通常の精米では、細長い形の玄米を球形に磨いています。
米の長い軸を垂直に立てて見た時の、上下の部分は多く削られ、真ん中部分は薄く削られます(上図の、右側の絵)。つまり、真ん中辺りには、雑味のもととなる成分がわずかに残る可能性が高いのです。
外層をしっかり除くためには、精米歩合を上げて小さなビーズのように磨き上げることもできます。しかし、高精米は米が割れてしまうリスクが高まり、糠(磨きカス)が増え仕込みに使う米のロスも多くなります。

これに対し、より適切に米を磨く方法が、超扁平精米(*2)です。

米粒の形状に沿って、等厚で米を磨くことで、雑味の原因・外層をしっかりと削り取る。これを、大七で開発した特殊な精米機で実現しています。この方法は、1993年 齋藤富男氏(元東京国税局鑑定官室長)が提唱された “扁平精米法” がもとになっています(*3)

大七酒造さんは、論文を知り「これだ!」と感じたそうです。
では、米粒を扁平に削るためにはどうしたらよいか?

精米機のロール(砥石)の回転速度と、米粒を流す流量を制御することで、従来通り丸く削ることも、扁平に削ることも可能なのだそうです。しかし、扁平にすることは簡単なことはありません。少しの注意を怠っただけで、米粒を割ってしまうのです。扁平精米を得るには、適切に精米機をコントロールする腕が重要なのです。

当時の精米部長の尾形義雄氏(故人)は、細心の注意で極めて扁平に米を削ることを実現しました。長い時間と、努力を積み重ねて、精米技術を磨いたのです。その結果、尾形氏は「現代の名工」に選ばれました。
一つ一つの工程にこだわる、蔵の姿勢がわかるエピソードですね。

*2 超扁平精米について : 大七酒造ホームページ 超扁平精米について (外部サイト)
*3 齋藤富男氏による、扁平精米の原理 : 日本醸造協会誌 88(3), 170-177, 1993 『酒造用白米の形状と精米効率』

蒸米のこだわり

次に紹介するこだわりは、蒸米づくり。

大きな酒蔵では、連続蒸米機などを使用して、効率良くたくさんの米を蒸しています。
しかし大七酒造では、現代的な機会を使わず、昔ながらの竈(かまど)と和釜を使った方法にこだわっています。

日本酒造りに使う米は、家庭で食べるご飯のように炊くのではなく、強い蒸気で蒸しています。これは、麹が繁殖しやすい外硬内軟な状態を作るためです。
望ましい状態の蒸米を作るためには、激しい沸騰を起こし、100℃を遥かに超える蒸気を発生させることが必要になります。そのために、竈と和釜で蒸米を作ることにこだわっているのだそうです。

平成の世ではあまり見る事のない竈。大七酒造では、2004年に新社屋を建てた際に、わざわざ竈造りの出来る業者を探して、屋内に竈を2箇所新設されたのだそうです。

そして、この竈で使うのは鋳物の和釜。
和釜で蒸気を発生させ、上に載せた甑(こしき)でお米を蒸し上げます。
鋳物の和釜にこだわった理由は、強い火力に耐え、激しい沸騰を起すことで、高温で乾いた蒸気が作れるからだそうです。しかし、大きな釜を鋳造してくれる業者は、なかなかありません。岩手には南部鉄器の伝統がることから、大型鋳物を扱う岩手製鉄株式会社にお願いしたそうです。新しい和釜を鋳造するのは、全国で約40年ぶりだったとか。失われつつある技術の復活です。

苦労して手に入れた和釜ですが、太田社長は「釜は消耗品」だと仰います。
なぜなら、竈の火にさらされた釜には、煤(すす)がつきます。高温な蒸気を得るためには、竈の煤はそぎ落とす手入れが必要です。この作業をする度に、釜は少しずつすり減り、薄くなってくると強火に耐えられず割れてしまうことがあるのです。
だが、良い蒸米づくりのためには、躊躇せずどんどん強い火を起こして蒸すべし! ということで、予備の和釜を用意して、釜は割れても仕方なしという姿勢で造りに望んでいるのだそうです。

熟成のこだわり

最後に、出来上がったお酒の貯蔵に関するこだわりをご紹介します。

大七酒造は、搾りたてで出荷する旬のお酒もありますが、ある程度の期間をゆっくりの熟成させたお酒が主流になっています。定番酒の 純米生酛(きもと) でも、1年~1年半の熟成を経て出荷するそうです。

上記の写真は、木桶仕込みの蔵。
ここでは、搾りたてから角がなく濃醇なお酒が約10年もの歳月寝かされているそうです。木桶を使うことで、木肌を通じて微生物が呼吸していて、お酒を円熟味を増してくれるのだとか。
ひんやりと静まり返った木桶蔵の中で、まろやかで綺麗なお酒が眠っている。写真を見ただけで、飲みたくなります(笑)。

熟成についてのこだわりは、その品質管理においても徹底しています。

純米酒、本醸造酒などは涼しい貯蔵庫のタンクの中で、吟醸酒系は瓶詰めしてから冷蔵貯蔵庫しています。
タンク貯蔵のものは、熟成途中で味見をして、その香味をチェックし、場合によっては予定よりも格下げした銘柄で出荷することもあるのだそうです。

こだわりの熟成酒には、ラベルに醸造年度と製造年月日(蔵出し日)の両方が印字されています。法的には、製造年月日の記載が求められるだけですが、熟成を大事に考えている大七酒造の配慮が伺えますね。

ちなみに、お酒の製造コストは、製造工程にかかるもの(含む、機械の維持費)などに比べ、保存場所など熟成にかかるコストの方が圧倒的に高いのだそうです。
熟成酒というのは、まさに “時間の贅沢”。
熟成酒は、落ち着いた場所で、じっくりと味わいたいお酒ですよね。

大七のこだわりを味わいながら…

ここまでお話しした、大七酒造のこだわりは、まだ “さわり” といえます。
麹づくり、酛(もと)すりから、瓶詰に至るまで、顧客の手元に美味しいお酒が届くよう、各工程の細部にまでこだわりがありました。

近年、テクノロジーにより、酒造り技術は目覚ましく進歩しています。今回のお話を伺う中で、それらの多くは搾りたての新酒や、一年未満で飲まれる若いお酒を美味しくする技術が多いことを知りました。
大七酒造の目指す進歩は、新しい酒で奇をてらうのではなく、伝統を大切にし、さらに “うまし酒” の高みを目指しているのではと感じました。

写真は、懇親会で太田社長を囲んでの一枚。みんなの笑顔が、お酒の美味しさを物語っていますよね。その蔵のこだわりを知ると、その蔵のお酒がいっそう愛おしくなる。そんな一時間の講座でした。


※ 注 ※
この記事は筆者が受講して、特に印象深かった点を中心に記述しています。実際の講座では、本記事にない色々なお話がなされています。また、ところどころ感想もまじえておりますので、ご了承ください。