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日本酒の味わい・香りを科学する~日本酒伝道(R)養成講座12~

日本酒の味わい・香りを科学する~日本酒伝道(R)養成講座12~

今夜の話は、『日本酒の味わい・香り』についてを、科学的に説明してくださるのだとか。

この時間の講師は、高橋千秋先生(写真)。
もともとは、拒食症などの原因を研究する脳科学者だったそうです。お酒が大好きな高橋先生は、40歳で一念発起してお酒の研究者に転身。現在は、岡山でお酒のことを大学生に教えたりしているのだそうです。

科学と聞くと、カタカナの成分名、分子構造、化学変化 etc. 腰が引けてしまいます(^^;)。
しかし、味わい・香の正体を知っておくと、自分の好きなお酒のタイプがわかったり、料理との相性を考えるのには便利なはず。ここは、ひと頑張りして、科学的に日本酒の味わいと香りを勉強しましょう。

前編:日本酒の味わいを科学する

図1:日本酒の成分比率と味わい

日本酒の味わいは、スッキリとした辛口のものから、甘目の旨口のもの、しっかりコクがあるもの etc… と、他に類を見ない幅の広さです。しかし、皆さんご存知の通り、日本酒の成分の8割は水です。2割弱はアルコールがしめ、残りの1割未満の成分が、お酒の様々な味や香を作りだしています。

お米と水だけで造られる日本酒なのに、どうやって香味を決める成分の違いが生れるのでしょう??
日本酒の秘密を、少しずつ解き明かしてゆきましょう。

日本酒の味わいの由来

図2:米から微生物が香味要素を作りだす関係

秘密の解明、ひと言でいってしまうと…
それは、微生物にあります!
日本酒造りに用いられる微生物(麹菌・酵母・乳酸菌) によって、すべての味と香りが作りだされるのです。

日本酒造りは、お米を磨いて外側のタンパク質層を削り、中心部のデンプン(心白)を麹菌が糖化します。さらに酵母が、その糖を食べてアルコールを作ります(発酵)。この発酵過程で、味わいとなる有機酸や、香り成分も、酵母が一緒に作りだすのです(図2の上段)。

また、お米を磨いても外側のタンパク質はある程度残ります。
その残ったタンパク質を、麹菌が分解することで、うま味を含む各種のアミノ酸が作られます(図2の下段)。

かなりザックリとした説明ですが、大凡はこんな感じ。
日本酒の香味成分は、アルコールを造りだすためにお米を糖化・発酵する過程で造られる、いわば副産物なのですね。

お酒に含まれる香味成分の違いというのは、造りの際に活躍した微生物の違いに大きく左右されます。その微生物ごとに生成する成分の得意技があり、お酒の香味が特徴づけられるのです。
お酒造りには、微生物たちという、見えざる酒造り職人が参加しているのですね!

味わい成分を紐解く

では、微生物たちの成果物の中で、味わいのもととなる成分を、少し深堀してみましょう。

●アルコール
お酒の必須成分、アルコール。これ自体にも苦味成分などの味わいがあります。
アルコールが薄いとスッキリとした味わいに、濃いとコクがあると感じます。

● 有機酸
酸性の有機化合物で、どの酸が含まれるかで味わいが大きく左右されます。日本酒に含まれる代表的なものとしては、コハク酸:うま味の成分、乳酸:穏やかな酸味、リンゴ酸:爽やかな酸味 などがあげられます。
どの有機酸が含まれているかは、使われた酵母種類に由来します。

● αエチルグルコシド
この成分は、日本酒の特徴的な成分です。
糖がアルコールに変化する際にこれが作られるので、他のほとんどの酒類では糖分が足らずにこの成分は見られません。並行複発酵で醸す日本酒ならではの産物です。
糖ではないのに甘味があり、肝臓機能を高めたり、肌をツルツルにする成分といわれています。

●アミノ酸
磨いた後の米の、少し残ったタンパク質が麹菌によって変化して、アミノ酸になります。
お酒のコクや旨味のもととなる成分で、グルタミン酸:昆布のうま味、アラニン:とっても甘い などを始め、たくさんの種類が含まれています。
ラベルに時々 “アミノ酸度” は、この成分の量を相対的にあらわす数値です。

これらの成分がどのような ”味” に感じるかは、図1にあります。
有機酸やアミノ酸は、個別の成分でそれぞれ味が異なります。一つ一つの成分の説明までは、ここでは行いません。興味を持たれたら、より深い科学の世界を、ぜひ調べてみてください。

味わいを感じる

図3:基本味の強さと温度の関係

日本酒に含まれる成分と、それらの味わいを説明してきましたが、人間の感覚というものは、分析器のように個々の味を定量的に感じるわけではありません。日本酒に含まれる成分が混ざり合って、複雑な ”お酒の味” として感じるわけです。
また、各成分の含まれている割合によっても味わいの感じ方は変わりますし、温度帯によっても味わいは変わります(図3)。

甘味は、低いと抑えられ、人肌位が頂点で強感じますく。そのため、甘目感じるお酒は、冷やして飲んだ方が飲みやすく・美味しいと言われます。
苦味・塩味は、温度が上がると抑えられます。お燗にすると飲みやすくなる・まろやかになるというのは、この特徴が大きく影響しています。

酸味は、温度の影響を受けずにいつも同じ強さです。しかし、冷やした方が爽快感があると言われています。また、酸味の強さは、他の味わいにも影響を及ぼします。

よく日本酒の味を、甘口・辛口といいますが、この “辛味” は、唐辛子などの辛さではなく、アルコール等による刺激のことを示しています。
ラベルに書かれている “日本酒度” は、お酒の中に残る糖分量を表しています。マイナスの値では糖分が多く甘口、プラスの値では糖分が少なく辛口といわれます。

また酸味が強いと、本来の日本酒度以上に辛口に感じます。日本酒度が中程度(±5位)のものでは、酸度によって味わいはかなり左右されます。

後編:日本酒の香りを科学する

図4:香りを感じる経路

次は、香りのお話し。

味わいの感じ方と異なり、香りの感じ方は個人差があります。まず、日本酒の香り成分のことを説明する前に、嗅覚について知っておきましょう。

物質の臭いを嗅いで、どのような食べ物かを探知する(食品探知)のは、過去の記憶と密接に関係しています。また、腐敗臭や焦げ臭さなど、生命に危険を及ぼすモノを探知する(危険探知)もそうです。経験を積むことで、探知できる臭いが身に着いていきます。
それに対し、香りの好みは遺伝的な要因と言われています。どの成分をいい匂いと感じるかは人それぞれで、後天的には変わらないものなのです。

香りは、鼻腔最上部から入り、電気信号のように脳に直接伝達します。その信号は、本能や自律神経を司る脳の部分(大脳辺縁系)で感知し、におい感覚が起きるといわれています(図4)。

また、嗅覚の感受性は、パーソナリティによっても異なります。
一般的には、男性よりも女性の方が嗅覚の感受性は高いようです。また、加齢によって感受性が下がってくるといわれています。その他、体調不良や疲労、ストレスなども、感受性を低下させる要因とされています。

こういったことから、香りについてはデータ化がしにくいのだそうです。つまり、物質の臭いをどのように感じるか、数値等で示すのは難しいのです。
なるほど… 日本酒の香りに関して、ラベル等に書けない理由がこの辺りにもありそうです。

お酒の中に感じる香りの種類

香りの感じ方には個人差があると知ったところで、いよいよお酒の香り成分についての話に進みましょう。

お酒の香りの由来には、3つの種類があります。

  1. 発酵中にできる香り
    酵母が作る第一のアロマです。図2の ”香り成分” がこれのことです。
  2. 熟成に伴う香り
    タンクの中での熟成に伴い発生するものです。杉樽を使ったり、低温の冷蔵庫で寝かせたりと、熟成の方法による科学変化で、香りが生まれます。
  3. オフフレーバー
    輸送や保存状態により異なる本来の香りが後からつくものです。陽にあたる、高温保存、冷蔵庫や収納場所の移り香など、良くない香りがつくことがあります。

お酒を選ぶときに、”香りの特徴” といわれるものは、1. か 2. にあたります。この発酵中にできる香りのなかで、代表的な香り成分を紹介します。

●アセトアルデヒド
木や草、青リンゴを連想する軽いにおい。アルコール発酵の中間代謝物で、アルコールを添加すると、この成分が増加する。発酵でもこの成分は発生するが、少量であればお酒の良い香りを支える。

●カプロン酸エチル
リンゴやメロンのようなフルーティな吟醸香。低温で醸した方がこの酸が多く生成されるため、吟醸酒は低温で仕込まれる。
18号酵母などが、これを多く生成するように改良されたもの。

●酢酸エチル
この成分が薄い場合はバナナに似た香り、濃いとセメダイン臭に。
アルコール発酵中に生成され、磨きの少ないタイプのお酒などに多いことがある。熟成などで他の香りが立ってくると、この香りは感じにくくなる。

●酢酸イソアミル
バナナのような香り、酢酸エチルと似ている。
吟醸香を構成するエステルのひとつ。脂肪酸が多い条件では生成が抑制されてしまうため、精米歩合を低くしてタンパク質を減らす。
14号酵母や、6号酵母などがこの成分を多く生成する。

…非常に専門的な話になってきました。
だいぶ頭も飽和してきたところで、お酒を一杯(笑)

日本酒を科学した最後に…

日本酒の味わい・香りを科学するということで、た~くさんのことを学びました。

この後に、日本酒のラベルに表記されている内容を見てみると…
日本酒度・酸度・アミノ酸度から、少しだけお酒の味が想像できてきますよね。しかし、そもそもこういった数値が書かれていないお酒の方が多いのが現状。やはり、飲まずに味を知るのは困難なことなのですね。

高橋先生は、こんなことも仰っていました。

最初の1~2杯くらいは、香りを感じて評価してみましょう。
 ・どんな香りなのか?
 ・どの位香るのか?
酔っぱらう前の最初のうちだけでOKですから。すると、お酒がさらに味わい深くなりますよ。

うん、これならすぐにできますね。
お酒を飲む度に経験値を上げる。地道に続ければ、どこかで自分の探知がステップアップするかも。その時に、再度のこ記録を読むと、またお酒に関する理解も深まるかもしれません! 将来に楽しみを残す深い講座でした。


※ 注 ※
この記事は筆者が受講して、特に印象深かった点を中心に記述しています。実際の講座では、本記事にない色々なお話がなされています。また、ところどころ感想もまじえておりますので、ご了承ください。