fbpx

Column Category :

現代の日本酒造りの潮流と、これからの展望~日本酒伝道(R)養成講座14~

現代の日本酒造りの潮流と、これからの展望~日本酒伝道(R)養成講座14~

今夜の話は、日本酒のトレンドについて。

ここ数年、日本酒ブーム到来といわれています。
日本酒といえば… 「おじさんが赤提灯で一杯」というイメージもう昔のこと。昨今は、各地で様々な日本酒イベントが開催されており、老若男女、沢山の方が日本酒を楽しんでおられます。
お酒を飲む場所も、居酒屋はもちろん、お洒落なバー、フレンチやイタリアンなどのレストランで日本酒を注文される方まで。日本酒を取り巻く環境も変わってきています。

これまで日本酒伝道師養成講座では、日本酒の造りや歴史文化など様々な角度から学んできました。それらを踏まえて、この時間は今の日本酒について改めて考えてみましょう。

講師は、日本酒輸出協会(SEA)会長・(有)デリカネットワークサービス代表取締役の松崎晴雄先生(TOP 写真)です。
 

現代の日本酒造りの潮流と、これからの展望

製造量が右肩下がりを続ける日本酒産業。しかし、日本酒全体の製造量は減っているものの、ここ数年、純米酒や吟醸酒などの特定名称酒(*1)の製造量は右肩上がりに増えています。そこには、昭和から平成という時代を背景に、市場要求の変化だけでなく、造り手側の変化もあったのです。

この時間の講師 松崎先生は、dancyu(ダンチュウ) の日本酒特集号を始め、日本酒に関する数多くの書籍・記事を執筆されている、酒類ジャーナリストです。
学生の頃から日本酒好きで、当時は安価なお酒を色々飲んでいたそうです。昭和50年代の地酒ブームの頃、日本酒の面白さに魅かれて、職業にまでしてしまったという根っからの酒好きです。
そんな酒愛溢れる松崎先生が、昭和後半から現在までの、市場の動向と酒質の流れについて、お話し下さいます。

*1 特定名称酒 : 国税庁 「清酒の製法品質表示基準」の概要 (外部サイト)

 

吟醸酒ブームと現代日本酒のトレンド

大正から昭和の始めには、吟醸酒の技術は確立されており、各地で造られていました。しかし、吟醸酒は新酒鑑評会向けのお酒、一般の消費者に飲まれることはあまりありませんでした。戦後の経済成長期を迎えた頃、熊本酵母(のちの協会9号酵母)などの登場により、徐々に吟醸酒が市場に出回り始めます。

一般的に吟醸酒が飲まれるようになったのは、バブル景気にさしかかる1985年頃。
それまで居酒屋などで飲むお酒は、いわゆる日本酒らしい酒が主流でした。そこに、花のような香りで、飲みやすいお酒が登場したのです。消費者にとっては、とてもセンセーショナル! 当時の好景気も手伝って、多少値が高くても華やかで美味しいが飲みたい!!と、吟醸酒ブームが起こります。
 
吟醸酒ブームは、造り手側にも更に大きな刺激を与えます。
ビールや洋酒に押されて低迷気味だった日本酒業界は、産地のアピールをしようと、各地で吟醸向けの酵母造りが盛んになりました。その中から、新たな吟醸産地として台頭してきたのが、静岡、山形、秋田、長野、福島などです。また、新たな酒造好適米の開発も行われ、それぞれの地域特性を持った吟醸酒造りが展開されてゆきました。

吟醸酒というのは、先人たちの技術革新によって生み出されたお酒です。造り手にとっては、鑑評会に向けて技術を磨き、よい酒を生み出すモチベーションを高める一因になっていました。
さらに、市場に出回ることで、売り手にとっては、現代の華やかで新しいお酒の象徴となり、飲み手にとっても、まさにサプライズな美味しさを知ることになったのです。

昭和の終盤から平成にかけては、吟醸酒は、造り手・売り手・飲み手、すべての人を魅了していたのです。そして、その流れが現在の日本酒の基本になっていると言えるのです。
 

「ポスト吟醸」をめぐる動き

昭和から平成にかわると間もなく、バブルが崩壊します。その波は日本酒の市場にも押寄せ、バブル期には木箱入り一本一万円なんて酒まで売れていたものが、めっきり売れなくなり吟醸酒ブームが終焉を迎えます。

株価の下落、金融破綻、雇用の悪化などなど… 世の中には冷たい風が吹きまくっている頃ですから、嗜好品であるお酒にお金をかけなくなるのも必然です。その影響で、平成6,7年頃から、安くて美味しい酒 が求められるようになりました。その要望は、特に流通サイドから強く発せられました。

バブル期までの綺麗で繊細な吟醸酒や、口当たりの軽い端麗辛口が主役だったのに対し、最低限の精米歩合(*2)で、日本酒本来のしっかりとした飲み応えのあるものが求められました。

同じ頃、空前のワインブームが起こり、アルコール飲料全体としても、スッキリしたものから 酒の原料・本来の味わいを感じるものにシフト してきました。ワインであればフルボディタイプの赤が、焼酎であれば芋焼酎を筆頭に、伝統的な造りの乙類の焼酎が人気となりました。

その波により、『日本酒本来の旨味、味わい』である 山廃・生もと造りのお酒が人気になってきました。速醸もとが登場して以来、昔ながらの時間のかかる生もと系造り方は少なくなっていましたが、ここにきて復活の兆しが出たのです。また、古酒にも目が向けられるようになり、お酒の飲み方も、冷やして飲むばかりではなく、燗酒が見直された のもこの頃です。

景気の動向を反映する形で、お酒をめぐる価値観、飲み方が揺れ動くなか、酒造りに関しては着々と進化を遂げていました。”昔ながらの酒” を求めながらも、麹造りや低温発酵など吟醸造りの技術がベースに根付き、低精米で日本酒らしい飲み応えの中にも、綺麗な味わいの酒が生み出されるようになったのです。

*2 純米酒の精米歩合
当時、純米酒の製法品質の要件は、精米歩合70%以下。この要件に該当しない白米、米こうじ及び水を原料として製造した清酒を、『米だけの酒』と呼んでいました。

 

若い造り手の台頭と現在のトレンド

吟醸ブームから、飲み応えのある酒の復権と、酒質の流れを追ったところで、ここ数年(平成30年現在)のトレンドを見てみましょう。

近年の酒を特徴付ける事情としては、蔵元杜氏の増加です。

江戸時代から脈々と続く醸造場の多くは、造りの季節になると杜氏を始め酒造りの職人集団が、南部・能登・丹波など各地方からやってきました。彼等はあくまで職人であり、杜氏がどういう酒を造りたいかと積極的に申し出ることはほとんどありません。各蔵の造りの方向性を決めるのは、職人ではない蔵元でした。

それが、蔵元自身が酒造りに参加し、造りたい酒を造り始めたのです。そして、その酒を自身で市場に問い、その声をまた新しい酒に活かす。そのサイクルができることで、各々の蔵の特色・方向性を持った酒が市場に送り出されるようになったのです。

その象徴的なのが、山形県高木酒造の『十四代』です。
高木酒造は蔵元杜氏の走りであり、この酒がもたらした瑞々しくフレッシュな吟醸酒の味わいは、多くの日本酒ファンを魅了しました。
こうした蔵元杜氏の酒がきっかけとなり、無濾過生原酒のブームが日本酒市場に到来したのです。

現在活躍する蔵元杜氏は沢山います。彼等が造りだす酒のキーワードとしては、

・今までの酒との差をもたらす『香』
・食生活の多様化に伴う、食中酒の『酸』
・飲み口の良さ、飲みやすさを導く『甘味』
・一口でフレッシュさを伝える『ガス感』

といったところでしょうか。これらは、いずれも酒造技術の向上によって実現されるのです。

蔵元杜氏たちは、自身が一口飲んで美味しいと思える酒を、味わっています。日本酒から足の遠退いている同世代の人にも伝えたい。彼らの造る酒は、そんな同世代へ贈るメッセージなのでしょう。
 

これからの日本酒は

今やその多様さから、国内の酒好きだけでなく、海外でも人気を得ている日本酒。これからはどんな酒質がトレンドとなっていくのでしょう。これからの日本酒を占うために、おえておきたいポイントを、松崎先生に伺いました。

・ GI:地理的表示(*3)
清酒の生産地と品質を適切に伝えるために、国で基準を制定しています。
ワインは原産地呼称により、産地の特徴が伝わり、造り手・飲み手の双方の利益を確保してきました。GIを導入することで、日本酒の地域性も、酵母由来なだけでなく、土地の味をつきつめる動きがありそうです。

・ 一般米使用の酒
一般に広く親しまれるためには、価格は重要な視点です。
酒造りに使う酒造好適米は、育てるのが難しく飯米(食用の品種)よりも高価です。飯米を使うことで、原料価格を下げる試みはこれからも続くでしょう。

・ インバウンド需要(*4)
日本酒の輸出は、年々2桁の伸びを見せています。特に、US・香港・シンガポールなどでは、輸出単価が高い大吟醸酒クラスのお酒が人気です。
その傾向は、これからもまだまだ増えてゆきそうです。

・ 海外市場、海外における協業
既にいくつかの国でも、清酒造りが行われています。今現在は、そこそこの品質の酒が造られていますが、今後は海外でも品質が向上してくるでしょう。
それに負けないためにも、日本産の清酒は、品質でTOPを守るブランディングが行われてゆきます。

 
以上のような点を踏まえて、次に流行するお酒はどんな酒質のものになるでしょう。先生のご意見では「吟醸」と「旨口」のいいとこどりした酒が、これからのトレンドになるのではという事でした。

ちょうど、2017BYの新酒が沢山出回る時期。今夜勉強したことを思い出し、酒販店にならぶお酒を選ぶのも楽しそうです。そして5年後・10年後、飲み手としては酒を飲みながらこの記事を読み直してみようと思います。


*3 GI:地理的表示
「お酒の地理表示をしっていますか?」(pdfファイル) 国税庁HPより

*4 清酒のインバウンド需要
「酒類の輸出金額・輸出数量の推移について」(pdfファイル) 国税庁HPより

※ 注 ※
この記事は筆者が受講して、特に印象深かった点を中心に記述しています。実際の講座では、本記事にない色々なお話がなされています。また、ところどころ感想もまじえておりますので、ご了承ください。