fbpx

Column Category :

美味しいお燗を飲もう!~日本酒伝道(R)養成講座16~

美味しいお燗を飲もう!~日本酒伝道(R)養成講座16~

今夜の話は、お燗酒について。

酒質が向上し、様々なタイプの日本酒が楽しめるようになった現在。皆さんがお好きな飲み方は、冷酒? 燗酒?

近年、居酒屋や日本酒飲み放題のお店では、冷酒で飲まれているの多く見受けます。爽やかな淡麗タイプ、香り華やかな吟醸タイプなどが市場で人気を得て、特に若い方には冷たくしたお酒が好まれているようです。

かつて、江戸の居酒屋では四季を通して燗酒が出されました。当時は現代よりも低い精白しかできなかったために、温めることで酒の味を引き出していたと言われています。また、ひと手間かけて温めることで、お客様をもてなす気持ちの表れだったとも。

お燗酒は、そんな伝統的な飲み方。お酒好きなら、燗についての知識は必須! 美味しく、楽しく、お燗酒について学びましょう。
講師は、末廣酒造株式会社 代表取締役社長 七代目 新城猪之吉 先生(写真中央)です。
 

美味しいお燗を飲もう!

数ある酒造のなかから、なぜお燗酒の講師が、末廣酒造さんなのか?
末廣酒造は会津の蔵。この地は日本海側気候の影響を受け、冬場は豪雪地帯となります。ですから、冷えた体を温める燗酒は、この地方での伝統的な “たしなみ” といわれてます。

また、末廣酒造は山廃造り発祥の蔵。自然の菌を取り込んで造る生酛(きもと)・山廃系のお酒は、なんといっても濃醇なうま味が特徴。お燗にするとおいしいタイプの代表格です。
そんなお酒がフラグシップといってよい蔵ですから、お燗酒に関するこだわりもひと際です。お燗酒の魅力に注目し、よりおいしく楽しむための研究を長年重ねてきたそうです。

その蓄積から、末廣酒造では『お燗名人講座』を不定期に開催し、燗酒の知識・美味しい入れ方などを、多くの酒ファンに伝授しています。
そんな蔵の社長自ら、今夜はお燗酒について講義していただきます。
 

「お燗酒」の魅力を知ろう

江戸時代の儒学者 貝原益軒は、『養生訓』という健康法に関する指南書を残しています。その中の一説に、

凡そ酒は夏冬ともに、冷飲熱飲に宜しからず。温酒をのむべし。熱飲は気昇る。冷飲は…(略)

という記述があります。冷たい酒・熱い酒ではなく、温かい酒を推奨しています。
その当時、今のような清酒ではなく、にごり酒が主流だったり、殺菌されていない酒が出回っていたことから、冷酒は “脾胃を損ず” と警告し、温酒は “食滞をめぐらさんがため” に良いとも言っています。
このように、江戸の昔から 「温かいお酒」は体に優しい! ということが広まっていました。

また、世界中の酒類の中で温めて飲むものは、日本酒とほんの一部の酒に限られます。
ホットワインや、ホットウィスキーなどもありますが、これらは、砂糖・生姜・シナモン などを加えて、寒い時に体を温めるために飲まれることが多いでしょう。元々のお酒を楽しむのとはちょっと異なりますね。

日本酒は、温めてもお酒そのものの味を楽しみます。これは、温度によって味わいが変化するという、日本酒独特の性質があるからです。また、日本酒を温めると、冷で飲んだ時よりも料理との相性の幅が広がり、食中酒としてより合わせやすいお酒になります。

それから、お燗酒を楽しむには、とっくりやお猪口など、たくさんの酒器が存在します。四季折々、土地柄、その時々の情景にあった酒器を選び、酒の場を演出をする。「お燗酒」は、日本の風土・日本人の気質から生まれた、文化と言えます。
自分自身で美味しくお酒を飲むためにも、お酒で人をもてなすためにも、「お燗酒」は身に着けておきたい『大人のたしなみ』ですね。
 
 

日本酒のタイプとお燗の種類

さて突然ですが… あなたが酒販店の店員だったとして、「お燗にして美味しい日本酒はどれですか?」と聞かれたら、どう答えますか?

日本酒には、ご存じのとおり様々なタイプのお酒があります。その中でも、次のようなタイプのお酒が、燗に向いているといわれます。

  • 米の旨味が生き、しっかりした味わいで、酸味豊かなタイプ
      生もと系酒母仕込の純米酒、本醸造酒など
  • 淡麗な酒質のキリッとしまった辛口タイプ
      辛口タイプの本醸造酒、普通酒など

では、上記以外のタイプはお燗には向かないのでしょうか?
いえ、そんなことはありません。基本的には、どのタイプの日本酒もお燗にできます!
 
吟醸酒は冷たして飲むと思われがちですが、旨味がしっかりしていてお燗にすると美味しい吟醸酒もあります。しかし、吟醸香の強いものや、フレッシュな新酒は、お燗よりもやはり冷で飲んだ方が美味しく感じるでしょう。
また、熟成してまろやかになったお酒もお燗によいですが、甘口タイプの熟成酒は冷での丁度良いバランス感が、温度を上げるとくずれてしまい、好まない方もいることでしょう。

 お燗の種類とその温度帯・タイプ別相性 

上記の表は、一般的にいわれるタイプ別の温度帯のオススメです。
これを全部覚えるよりも、新城社長のオススメの温度帯が、よりシンプルだったので加えてご紹介しておきます。

  • 人肌燗・日向燗は使わない
    体温と同じくらいの酒は、あまりおいしく感じないので、ぬる過ぎる燗はどのタイプでも使わない
  • 純米酒・本醸造酒・普通酒は 飛び切り燗
    日本酒本来の味のしっかりした酒は、熱くつけてまろやかにする
  • 香付きの酒は ぬる燗 ・ 純米吟醸酒は 熱燗
    吟醸酒の良さを消さないよう、温度をあげすぎないように気を付ける

これだけなら、かなり覚えやすい! すぐにも出来そうですね。

とはいえ、香味の好みは、人それぞれ… このようなセオリーが自分に合うかどうかはわかりません。まずは自分の好みの温度帯を探すことから始めてみましょう。
 

美味しいお燗酒の付け方

ではいよいよ、お燗酒・実践!
徳利とお猪口を用意して、どうやってお燗をつけましょう。

お燗の方法はいろいろありますが、湯煎が一番です!
お酒にとって、急激な加熱は厳禁。ゆっくりゆっくり愛情をこめてお湯で温めてあげましょう。

ココで要注意、アルコールが沸騰する温度は78℃と、水よりずっと低い温度です。つまり、沸騰したお湯にお酒を浸けるとアルコールが飛んでしまいます。湯煎するお湯はせいぜい80℃。沸騰したお湯を使い急激に温度を上げると、アルコールだけが先に突出して、ツンとアルコール臭く、ビリビリと刺激があるお燗酒になってしまいます。
美味しいお燗をつけるには、お湯は80℃位で、お酒の温度を時々確認しながら、温めましょう

もう一つ、家庭で手軽にお燗がつけられる方法に 電子レンジ燗 があります。ボタン一つでチーン! とお手軽ですが、電子レンジによる燗付けには、注意が必要です。

  • 温度の上げ過ぎ
    レンジ燗は油断していると、お酒の温度はすぐに80℃を超えてしまいます。電子レンジで使う酒器を決めて、適切な温度になる時間を測っておくなど、予めの配慮が必要です。
  • 容器内で温度ムラ
    電子レンジによる温めは、部分的に温度の高低差ができてしまいます。例えば、徳利の細い部分だけ急激に温度が高くなったり、他はまだまだ温まっていなかったりします。

家庭では、これら二つの方法が主ですが、かつてはや酒器を直接火にかける “直火燗” などもみられました。実は、この方法は最悪! すぐにビリビリとアルコール臭いお燗酒になってしまいます。

ここまで勉強してみて、かつて「お燗は苦手」と感じていたことを思い出しました。そこには、燗のつけ方に関わる悪習慣が存在していたのです。

すこし前、飲み屋さんには業務用酒燗器が置いてありました。カウンターの奥などに、一升瓶を逆さに立ててさしてある機械を見たことないですか? それが業務用酒燗器です。
これは、お酒を自動的に温めておく、いわば日本酒専用のホットサーバー。
多くの飲食店では、安いお酒をこの機械にセットして長時間温めっぱなし。50℃程度といっても、ずっと入れっぱなしでは酒質が劣化します。また、酒燗器自体もなかなか洗浄しないという悪状況。これでは、お燗酒が不味くなるわけです。

美味しいお燗酒のためには、ひと手間かけてその場で湯煎。お酒への愛情を持ってお燗につけてあげましょうね。
 

山廃とお燗酒

最後に、伝道師養成講座らしいマニアックなネタを一つ。

末廣酒造は、江戸時代の嘉永三年(1850年)創業の会津の盟主。その歴史の中で、酒造りの技術改良に挑まれ、山廃のお酒が造られるようになりました。

山廃酒母は、明治42年、当時の醸造試験所(現 酒類総合研究所)の技師 嘉儀金一郎先生によって考案されました。その後大正6~8年、末廣の四代目 新城猪之吉氏が、先生を招聘して山廃酒母の実地醸造を行いました。その造りは一筋縄ではいかず、3年間で300石もの酒を腐らせる(腐造)という苦労を重ね、ようやっと完成させたそうです。
実地醸造に使われた場所は、嘉永蔵と呼ばれ、末廣酒造で現役の醸造所として稼働しており、現在も「伝承 山廃純米末廣」が造られています。

燗にして美味しさが増すお酒のことを 「燗上りする」と言います。山廃のお酒は、まさに燗上りするお酒。なぜなら、山廃や生酛(きもと)系は、温めると美味しく感じる成分・有機酸(コハク酸や乳酸など)を多く含んでいるためです。

乳酸といえば… 速醸もとのお酒はタンクに乳酸を投入してから酒母を造るので、山廃などより多いのでは? と、ちょっと思いました。
自然から取り込んだ場合と異なり、予め投入した速醸の乳酸は、燗にするとコハク酸は残るが乳酸は消えてしまうのだそうです。それに対して、生酛(きもと)/山廃はしっかりとコハク酸も乳酸も残る。その結果、バランスよく料理に合いやすい、燗上りしたお酒になるのだそうです。不思議ですね。
 

お燗酒を飲みながら…

色々勉強した後は、いつもの通り懇親会。もちろん今夜は、末廣酒造さんのお燗酒で!
冷と燗とを飲み比べながら、料理と一緒にお酒をいただく。ここでも、「お燗酒の真価は料理があってこそ」を、体感する勉強です(笑)

料理と合せるときの考え方の基本は「温かいお酒には、温かいお料理」。ですが、温かくないお料理にだって、お燗酒は良く合うのです。特にチーズなど発酵乳製品との相性は抜群。
新城社長のお知り合い、かの有名なソムリエ T氏も、チーズにはワインよりも日本酒の方が良く合うと言わしめた程。また、イタリアンの有名シェフ K氏とも懇意にされており、イタリアンと日本酒との相性の良さも太鼓判が押される程だとか。

そんな話を聞きながら、料理へ箸が進み、お酒の杯数も進む。
真面目にお燗酒について学習し、使った頭はお酒で休める。楽しく夜が更けた講座でした。


※ 注 ※
この記事は筆者が受講して、特に印象深かった点を中心に記述しています。実際の講座では、本記事にない色々なお話がなされています。また、ところどころ感想もまじえておりますので、ご了承ください。