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海外の方々に日本酒を伝える ~日本酒伝道師(R)養成講座18~

海外の方々に日本酒を伝える ~日本酒伝道師(R)養成講座18~

今夜の話は、海外の方に向けた日本酒の伝え方について。

日本を訪れる外国人観光客は、和食を楽しむとともに、日本酒をお飲みになる方も多くなりました。彼らの中には、始めて飲んだ日本酒が気に入り、日本酒ファンになる方も少なくありません。
2020年の東京オリンピックを間近に控え、日本を訪れる外国人観光客は年々増加しています。そんな海外からのお客様に、日本酒の良さ伝えるのも『日本酒伝道師』の大切な役割! どうやって海外の方々に、日本酒のことを伝えたらよいでしょう?

この時間の講師は、国際きき酒師の資格を持つ 宇津木聡子 先生。海外の方に、日本酒の素晴らしさを伝える活動を続けていらっしゃいます。

海外の方々に日本酒を伝える

宇津木先生は、海外からの来訪者向けに、英語で日本酒体験のガイドをされています。
「日本文化の一つとして、日本酒を楽しんでもらいたい」との考えから、体験ツアーは、街に出て角打ちスタイルの酒屋さんなどで、一緒にお酒を飲みながら、日本酒についての話をするそうです。
週に1回くらいのペースで、これまでに 29か国 180名程のお客様を案内してこられました。参加者の4割はアメリカの方、次に多いのは北欧やイギリスの方だそうです。リピーターも多くいらっしゃるとのこと。その方たちは既に日本酒の魅力をキャッチされているという事ですね。

先生自身も、お酒が大好き。TOPの写真にあるロゴマーク「Smiling Sake satoko」は、ご自身で作成されたもの。このマークも酔っぱらっているときに描かれた幻の原画だそうです。
お酒好きの先生の人柄も、きっと日本酒ファンを増やす要因の一つでしょう。そんな先生が、どの様に海外のお客様に日本酒の魅力を説明しているのか、そのノウハウを伝授していただきましょう。
 

海外市場での日本酒の状況

海外のお客様への説明の仕方を考える前に、海外の方からみた日本酒の状況と、その関心事についてを探ってみましょう。

日本酒の海外輸出量は、年々増加の一途をたどっています。
国税庁の発表によると、平成29年度の清酒輸出総量は、23,482キロリットル、約13万石 (1升瓶なら1300万本) になります。この数値は前年比 119.9%、この10年でみると倍増と右肩上がりになっています(*1)。

また、平成29年度は、酒類全体の輸出量も過去最高に。日本酒の他、ビール、リキュール、ワインそれぞれが上り調子にあります。きっとこれは、日本の醸造技術の高さ、品質の良さが、海外に受け入れられているためなのでしょう。
このような世界市場の流れもあり、日本国産酒類の輸出拡大・その環境整備は国の施策にもなっています。この施策の一つに、地理的表示(GI)として『日本酒』を名乗れるのは、原料の米・米麹は国産のものだけ、という法律が平成27年12月に制定されています。

とはいえ、世界市場の中での日本酒流通量は微々たるもの。日本からの酒類輸出量の内訳も、ビールが1位で 10,402,728キロリットルとダントツで、日本酒は2位。日本酒の全出荷量からみても、輸出が占める割合はたったの 3.5%(平成28年度の数値)です。日本酒の海外展開は、まだまだ伸び白ありと言えましょう。

清酒の輸出状況をより詳しく見てみると、清酒の輸出総数のうち、過半を超える 54.8% が特定名称酒が占めています(平成28年度時点)。

上記のグラフは、平成28年度の清酒輸出先上位10か国の状況です。
この時点で、主な清酒の輸出国の内訳をみると、アメリカや欧州では特定名称酒大半を占めていることがわかります。また、中国や香港なども、近年は特定名称酒の輸出量が増える傾向にあります。

近年の和食ブームの波に乗り、海外の飲食店でも、日本酒を飲まれる機会も増えてきました。しかし、ワインやビールのような身近なお酒ではなく、日本酒の知名度はまだ低くく、口にしたことない方が大半です。
さらに、海外における日本酒の販売価格は、かなり高くなります。アメリカの例では、日本での出荷価格を1とした時に、現地での小売り価格は4倍にも跳ね上がってしまいます(*1)。なぜなら、関税や、流通費用の他、少量輸入のため現地小売店のマージンも高くなってしまうからです。

そのような状況ですから、日本を訪れず外国人の方も、日本酒に馴染みのない方が圧倒的に多いでしょう。実際に、宇津木先生のツアーに参加されるお客様にも、日本酒に対する知識も興味もあまりなく参加されている方も少なくないそうです。

*1 参照元:国税庁ホームページより
酒類の輸出統計
  平成15年~平成25年の輸出統計(金額・数量)データ
  平成26年~平成29年 各年12月品目別データ
日本酒輸出ハンドブック(米国編)

「日本酒ならでは」を伝えよう

海外からのお客様は、日本酒のことを全く知らない方ばかりとは限りません。過去に日本を訪れた日本酒ファンの方や、海外で日本酒が好きになりわざわざ日本へいらした方もいらっしゃいます。実際に、ツアー問い合わせの際に「山廃の酒が飲みたいが、飲めるか?」と聞かれた方までいらっしゃったそうです。

宇津木先生が感じられていることとしては、日本酒ツアーに参加されるお客様は、数字やロジックなどを交えた、リアリティな話に興味を示されるそうです。講座でお話しいただいた中で、筆者の印象に残っているものを幾つか紹介します。

・日本は老舗大国、酒蔵の多くは老舗
日本は100年を超える企業・商店が10万軒を超える、世界で稀に見る老舗大国です。日本酒の醸造元もしかり。創業100年を超る、立派な老舗酒蔵が数多く現存しています。なかでも、最古といわれる酒蔵・茨城県の須藤本家さんは、なんと800年もの歴史があると説明すると、お客様からは Woow! と感嘆が漏れるそうです。

・日本国土がもたらす恵み:軟水”Soft water”
日本の水は、世界基準でみると軟水よりです。硬水と言われる灘の宮水でも、実はやや硬水の部類です。日本の国土は、7~8割が山岳地帯。山に降り注いだ雨は、大地のフィルタにかかり綺麗な水となって人里へ届きます。この期間が長くないため、ミネラル等の吸収が少ない軟水ができあがるのです。この軟水が、日本酒造りや出汁を取るのに向いており、日本の食を支えているのです。

・原材料・米へのこだわり:酒米”Sake Rice” vs. 飯米”Food Rice (Table Rice)”
酒米は、日本酒を造るために改良されたお米。飯米に比べ、大粒でたんぱく質含有量が低いのが特徴。一般的にはその事はあまりご存じない。
しかし、日本酒造りは酒米・飯米原料の良し悪しだけに依存するのではなく、お米の特徴を活かして美味しいお酒にする。収穫後、注意深く磨き、丁寧に洗い、精密な時間管理で吸水する。その繊細な作業に、海外のお客様は Woah! とまたもや感心してくださるそうです。

・発酵プロセスの特異性:並行複発酵 ”Multiple Parallel Fermentation”
蒸した米を麹菌を使って、糖化させながらアルコール発酵を徐々に促す醸造方法。一つのタンクの中で糖化・発酵が同時に起こるのは、他には類をみないミステリアスな現象です。
醸造酒というと、ワインの方が海外の方には身近なお酒なので、その違いから説明することで、海外の方にも伝わりやすくなるようです。
>> 参考:日本酒造りは酒屋萬流(其の壱)

日本酒の造りのユニークさ、まだまだありますよね。造りの繊細な作業や、古くから伝わる技術は、海外の方には ”素敵” と思ってもらえる事が多いようです。老舗大国・日本の片鱗が、それぞれのエピソードから伝わるのでしょうか。
このような説明は、図や写真、現物(精米した酒米など)を用意して、先生はお話しされているのだそうです。やはり、伝えるための準備にも気を配る、”おもてなし” の心は、日本人として忘れずに見習いたいところです。

日本酒のラベルを伝えよう

旅先で、日本酒飲んでお気に召されたら、日本酒を購入して帰りたい。そんな方も多いですよね。しかし、ここで困ったことが一つ…
日本酒のラベルの多くは日本語表記 ONLY、海外の方が読み取れる情報はとっても少ない。お土産コーナーに並んだお酒のなかで、日本酒と焼酎のボトルの見分けることさえも難しいのだとか。
そんな時に役立つ紹介の方法も学んでおきましょう。

酒タイプ「特定名称酒」 : Specially Designated Names
日本酒を勉強する時にまず最初に習うのが、特定名称酒の定義。”Ginjo” “Daiginjo” は、日本酒を好きになった方ならよく耳にするワードの様です。
日本酒情報を英語化しているサイト(*2)でも、この説明方法が掲載されています。そういった参照情報をお伝えするだけでも、お役に立ちそうです。
*2 参照例:日本酒造組合中央会 HP より Types of Sake

精米歩合 : Degree of rice polishing
海外の方でも読み取れるラベル表記は数値。その一つが精米歩合です。
お米の磨きの割合を、%表示で示してあるため、アルコール度数と間違えられていることもあるそうです。
精米歩合は、お米を磨いた後に残っているお米の重量比を表します。この数値が小さいほど、削った量が多く、原材料費もかかる。 “Less number, more polished.” と伝えると、「あ~、なるほど」と言われるそうです。

・日本酒度 : Sake Meter Value
日本酒度はラベルに書かれていない事も多いのですが、この説明は意外と海外のお客様も興味を示すそうです。水を基準としたお酒の比重を示す値、糖分が多くなると重くなり、ドライ(辛口)になると軽るくなるというもの。表現するなら “A numerical expression to measure sweetness or dryness that utilizes the specific gravity system” といった感じ。
ただし、「日本酒の味わいは様々な要素の組み合わせでできており、日本酒度だけで決まるわけではない」そんなこともぜひ伝えましょう。

他にも、色々とラベルの情報はありますが、お酒の個性を知るためのキーワード

  •  Namazake (生酒) : unpasteurized sake”
  •  Genshu (原酒) : “undiluted”
  •  Nigorizake (にごり酒) : “cloudy sake”
  •  …など

といった呼称も、役立ちます。
ここで、ひとつ大切なこと。言葉を説明する時に、漢字を必ず示しましょう。なにしろ、お酒のラベルは漢字表記。「この名前の形が覚えられたら、覚えてね」と、コメントを添えましょう。

まずは、伝えてみましょう

この講座では、上記の他に味や香の伝え方など、もっともっと沢山の英語表現を教えていただきました。英語の苦手な筆者にとっては、英語で日本酒のことを伝えるのは、なかなかハードルが高そうです。そう思っていたところ、最後にこんなエピソードが紹介されました。

ツアーに参加された方に、先生は最初に “Nihon-syu(日本酒)” という言葉を知っていますか?と聞くそうです。
この名称は、日本産の米を使って、日本国内で製造された清酒のみが名乗れるもの。海外では “SAKE” という呼称が一般的ですが、日本にいる間は『日本酒』を使ってください。とお話しするそうです。

最初のステップとしては、この話題だけでも英語で伝えられるようにしてみましょう。あとは、今回先生に習った英語表現のあんちょこを持って、一緒にお酒を酌み交わせば、きっと日本酒の美味しさは伝わるはず。そんなことを思いながら、沢山メモを取った時間でした。


※ 注 ※
この記事は筆者が受講して、特に印象深かった点を中心に記述しています。実際の講座では、本記事にない色々なお話がなされています。また、ところどころ感想もまじえておりますので、ご了承ください。